大阪高等裁判所 平成9年(ネ)2402号 判決 1998年6月17日
主文
一 原判決を、確定した主文二項を除き、次のとおり変更する。
二 被控訴人は控訴人に対し、金一三二万九〇九六円及びこれに対する平成八年四月一八日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
三 控訴人のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを五分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
五 この判決は二項について仮に執行することができる。
理由
【事実及び理由】
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は控訴人に対し、金四六五万一八〇〇円及びこれに対する平成八年四月一八日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 事案の概要
一 原判決の引用、補正
事案の概要は、次の二のとおり附加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」(原判決四頁二行目から一四頁六行目)記載のとおりであるから、これを引用する。
ただし、次のとおり補正する。
1 原判決四頁五、六行目の「並びに競業務禁止義務の確認」を削除する。同一一頁七行目から九行目まで、同一四頁六行目を、いずれも削除する。
2 同八頁四行目を全部削除する。同頁五行目の「(一)」を「1」と改める。同九頁五行目の「(二)」を「2」と改める。同一一頁二行目の「(三)」を「3」と改める。
3 同七頁末行の「前記」の前に「これを除いた」を加える。
4 同一四頁四行目の「被告の債務不履行」を「原告(控訴人)の債務不履行」と改める。
二 当審附加主張(争点2--違約金条項の有効性、争点3--同条項の公序良俗違反関係)
1 控訴人の主張
(一) 被控訴人が、控訴人との間のクリーニング取次業務委託契約(以下「本件委託契約」という。)を解約したのは、控訴人に苦情処理義務違反の債務不履行があったためではない。
被控訴人は、有限会社コムクリーニング(以下「コム社」という。)から好条件を提示され、本件委託契約を解約して、コム社の取次店になったのである。
(二) 控訴人に債務不履行があったとしても、本件委託契約書(甲一)第一五条後半記載の違約金条項(以下「本件違約金条項」という。)を制限的に解釈することは許されない。
控訴人に債務不履行がある場合でも、控訴人の信用毀損を防ぎ、顧客の混乱を回避するために、被控訴人に競業避止義務を負わせる必要がある。
競業禁止期間一年も、合理的な期間である。一年経過後であれば、取次店が他社の取次店となって取次業務を再開しても、控訴人が信用を傷つけられることは少なく、顧客がクリーニング業者を混同することがないからである。
原判決は、被控訴人がコム社の取次店営業をしていた期間(二か月)に限り、同期間(二か月)の平均売上高に限定して違約金を認めている。しかし、何故二か月が相当なのか、その根拠が明らかでない。
2 被控訴人の反論
(一) 被控訴人は、控訴人のクレーム処理の拙さから本件委託契約を解除したのであり、コム社から勧誘があったからではない。
(二) 控訴人に債務不履行があり、被控訴人が本件委託契約を解約するのもやむを得ない場合には、被控訴人に本件委託契約の解除権が発生する。
その場合にも本件違約金条項を適用されると、被控訴人の解除権の行使が著しく制限されることになり、そのようなことは認められない。
本来、本件違約金条項は、公序良俗に反して無効であるが、仮に無効でないとしても、制限的に解釈しなければならない。
第三 当裁判所の判断
一 本件違約金条項の合意の成否(争点1)の検討
当裁判所も、本件違約金条項について、合意が成立していると認める。その理由は、原判決一四頁九行目から一六頁末行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
二 本件違約金条項と債務不履行解除(争点2)、及び公序良俗違反(争点3)の検討
1 事実の認定
《証拠略》によると、次の事実が認められる。
(一) 被控訴人(昭和一〇年四月二日生の主婦)は、昭和六〇年一二月五日から平成八年一月二〇日まで、控訴人(クリーニング業者)との間で、本件委託契約に基づき、自宅でクリーニングの取次店を営んだ。
(二) 顧客からのクレーム処理状況
(1) 被控訴人は、平成六年七月二日、顧客の長谷川から洗濯物(バーバリーのコート)を預かり、控訴人に引渡した。ところが、控訴人は、同月一〇日ころ、コート本体をクリーニングして被控訴人に届けたが、いつまでたっても、ライナー(取り外しのできる袖のないコート下)を被控訴人に届けなかった。
被控訴人は、一年数か月間にもわたり、控訴人の従業員に対し、繰り返し何度も、ライナーはどうなっているのかと督促した。ところが、控訴人は、その度びに担当者が変わるなどして、適切な措置をとらなかった。遂に、長谷川も怒って、被控訴人の店に来なくなった。最終的には、控訴人が、本訴を提起した後の平成八年一二月になって、長谷川に弁償金を支払う方法で解決した。
(2) 被控訴人は、平成七年八月五日、顧客の明石から洗濯物(毛布二枚)を預かり、控訴人に引渡した。ところが、控訴人は、毛布一枚をクリーニングして被控訴人に届けたが、もう一枚の毛布は、いつまでたっても、被控訴人に届けなかった。
被控訴人は、数か月間にわたり、控訴人の従業員に対し、何度も、あと一枚の毛布はどうなっているのかと督促したが、控訴人は、適切な措置をとらず、そのまま放置した。控訴人は、会社の統合などがからんで、処理が遅れたのである。結局、毛布の件が解決したのは、毛布を渡した平成七年八月から数か月後のことであった。
(3) この他にも、被控訴人が控訴人のために取り次いだクリーニングについて、仕上がりが遅く一か月位かかることがよくあった。また、汚れが落ちておらず再洗いになるものが、月に数枚あった。顧客からも、クリーニングで縮んだなどの苦情がよくあった。
さらに、客からのクレームの処理について、控訴人が迅速に対応しないため、被控訴人が、顧客と控訴人との間に入って連絡をとり、顧客に謝罪することがよくあった。
(三) 本件委託契約の解約、コム社の取次店としての営業等
(1) このようなことから、被控訴人は、平成七年一二月当時、控訴人に対して不信感を募らせていた。ちょうどそのとき、被控訴人は、控訴人と同業者のコム社から、控訴人よりも好条件を提示され、コム社の取次店になることを勧誘された。
すなわち、本件委託契約では、売上高の二五パーセント弱(甲三の売上金額、手数料額による認定)が手数料である。これに対し、コム社は、売上高の三〇パーセントを手数料として支払う旨の、好条件を提示してきたのである。
(2) そこで、被控訴人は、平成八年一月二〇日をもって、控訴人との本件委託契約を解約し、同年二月一日から、自宅でコム社の取次店としての営業を始めた。
被控訴人は、それ以降、控訴人の名が書かれたテントを外し、全く新しいテントで営業をしている。被控訴人は、自宅店舗の正面玄関のガラス部分に、控訴人のイニシャルを記載したシールを貼っていたので、剥がそうと試みたが、ガラスに強く接着していて、容易に剥がすことができなかった。もっとも、それによって、顧客が、被控訴人店舗を控訴人の取次店と見間違うようなことはなかった。
(3) その後間もなく、被控訴人は、控訴人から、大阪地方裁判所に、クリーニング取次行為禁止の仮処分を申し立てられ、同裁判所から、同仮処分決定を受けた。
そのため、被控訴人は、平成八年三月末日をもって、コム社の取次店としての営業を中止せざるを得なくなった。
被控訴人は、競業禁止期間が満了する平成九年二月一日をまって、同日から、コム社の取次店としての営業を再開した。しかし、被控訴人の顧客は、従前の半分程度に減ってしまっていた。
2 本件違約金条項の効力の検討
(一) 損害賠償額の予定としての効力
本件委託契約書(甲一)の第一五条は、前半部分で、被控訴人に対し、本件委託契約終了後一年間、競業者からの受託行為を禁止し、後半部分で、被控訴人が右競業禁止条項に違反した場合、過去三か月間の平均売上高の一二か月分の違約金支払義務があることを定める。
右違約金条項(本件違約金条項)は、民法四二〇条が定める損害賠償額の予定の性質を有する。これは、契約の履行の確保と、契約不履行の場合の損害額の立証の困難を解消するためのものである。
このような損害賠償額の予定を定めた場合には、裁判所がその金額を免除・減額することができない(民法四二〇条一項但書)。
もっとも、本件委託契約書第一五条は、「前項の場合(競業禁止条項の違反の場合)、本契約の遂行にあたり取得した顧客、ノウハウ等を利用していると認められる時」には、違約金支払義務があると定めている(甲一)
(二) 控訴人の債務不履行による法定解除の場合の効力
被控訴人は、本件違約金条項は、控訴人の債務不履行を理由とする契約解除(民法五四一条所定の履行遅滞による解除、五四三条所定の履行不能による解除)の場合には、適用されないと主張し、控訴人はこれを争っている。以下、この点につき検討する。
(1) 本件委託契約書(甲一)第一五条は、この点につき、次のとおり定めている。
「乙(受託者〔被控訴人〕)は、第一三条に定める期間内(契約期間三年内)又は、契約解除等に基づき本契約終了後一年以内に於いて、」競業者の受託行為を行ってはならない旨を定め、この違反につき違約金の支払義務を規定している。
このように、本件委託契約自体において、「契約解除」の場合にも、違約金支払義務が生ずることを定めている。そして、この「契約解除」には、何らの限定も付されていないから、解約はもとより、当事者双方からの債務不履行による法定解除を含むものといわなければならない。
この場合、委託者(控訴人)側に帰責事由があるときでも、受託者(被控訴人)側の競業受託行為に帰責事由がある限り、次の<1><2>の場合など特段の事情がない限り、本件違約金条項は有効に存続すると解する。
<1> 委託者側が廃業し、競業者受託を禁止する利益がなくなった場合。
<2> 合意解除により、競業禁止や違約金条項ないしその請求権を喪失すると認められる場合。
そして、本件においては、このような特段の事情については、その主張も立証もないし、前認定1の各事実に照らしても、これを認めることができない。
(2) なお、被控訴人は、法定解除の場合には、解除の効果が遡及し、本件委託契約が当初から消滅するので、違約金条項も効力を生じないと考えているようであるが、誤りである。
準委任契約、委任契約などの継続的契約関係の解除は、その効果が遡及せず、将来に向かってのみ、その効力が生ずるにすぎないからである(民法六五六条、六五二条、六二〇条参照)。
(3) また、被控訴人は、法定解除権が発生する場合など、やむを得ない事由がある場合にも、違約金条項が適用されるとすると、法定解除権ないし解約権が著しく制限を受けるので、その適用は認められないと主張する。
しかし、本件違約金条項は、フランチャイズ契約などのように、解除、解約を直接制約する解約金を定めたものではない。競業的受託行為禁止条項違反による違約金を定めたものである。受託者(クリーニング取次店)は、クリーニング取次業務委託契約を解約、解除しても、競業的受託行為を行わない限り、何ら違約金を支払う必要はない。
したがって、本件違約金条項によって、解除権ないし解約権の制限を受けるものではないから、被控訴人の右主張は採用できない。
問題の本質は、本件違約金条項により、被控訴人の営業の自由が著しく制約されるかどうかであるが、この点は、次の公序良俗違反に関して検討する。
3 著しく高額な違約金特約と公序良俗違反の検討
(一) 違約金特約が社会的に相当と認められる金額を超えて著しく高額である場合は、営業の自由を奪うものとして、その超過部分は公序良俗に反し無効となる。何故なら、著しく過大な予定賠償額も、公序良俗違反の制約を免れるものでないからである。
(二) 著しく高額な違約金特約該当の検討
本件違約金条項は、被控訴人が本件競業禁止条項に違反した場合、違反の期間・程度を問わず、一律に、その直前三か月間の月平均売上高に一二を乗じた金額を、違約金とするものである。
そして、本件委託契約では、被控訴人が受領できる手数料は売上高の二五パーセント弱であるから(前示1(三)(1))、一年間の売上高を違約金とするということは、四年間に受領できる手数料額以上の金額を違約金とするものである。
したがって、本件違約金条項は、著しく高額で過酷な違約金特約といわざるを得ない。
(三) 本件違約金条項が全面的に公序良俗に反する無効なものであるか否か
証人井上勲郎の証言、及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められ、本件違約金条項自体については、金額の点はともかくとして、一定の合理的な基礎を有していることが認められる。したがって、本件違約金条項については、金額いかんにかかわらず公序良俗違反として、無効であるとはいえない。
(1) 競業避止義務、同義務違反についての違約金条項は、控訴人のみではなく、同業他社も同種の規定をおいている。
(2) 取次店が、あるクリーニング業者の取次業務を中止した直後に、同業他社の取次店になって取次業務を再開すれば、取次店が、顧客に前の業者の悪口を告げて説明するなどして、前の業者の信用を傷つけるおそれがある。また、顧客が、新業者を旧業者と混同するなどして、混乱を生ずるおそれがある。
そのような損害、混乱を未然に防止するために、クリーニング取次業務委託契約の中に、競業禁止と違約金条項を定めておく必要がある。
(3) クリーニング業者は、取次店の獲得・育成に多大の費用と手間がかかる。ところが、他社の取次店を唆して、自己の取次店にしてしまう業者が現れ、クリーニング料金のダンピングによる不健全な競争や、取次店の取り返しなどによる混乱がクリーニング業界内に生じた。
そのような弊害を事前に防止するために、クリーニング業界の一般的な傾向として、クリーニング業務委託契約の中に、競業禁止と違約金条項を規定するようになった。
(4) あるクリーニング業者の取次店が、競業禁止条項に違反して同業他社の取次店となった場合、前の業者は次のような損害を被る。しかし、その損害額の算定は困難であり、予め違約金条項を定めておく必要がある。
<1> 当該取次店を通じてあげていた収益の喪失による損害。
<2> 客やノウハウの流失による損害。
<3> 信用を傷つけられることによる損害(前示(2)参照)。
<4> 顧客が新業者を旧業者と混同することによる損害(新業者が信用のできない悪徳業者である場合に、特に損害が大きい)。
<5> 新たな取次店を獲得するために要する経費相当額の損害。
(四) 本件違約金条項の一部が公序良俗に違反する無効なものであるか否か
(1) 違約金特約が社会的に相当と認められる金額を超えて著しく高額である場合には、前示(一)のとおり、その超過部分は、公序良俗に反するものとして無効である。
そこで、本件違約金条項が社会的相当額を超えているか、超えているとすると、社会的相当額は幾らかについて、以下検討する。
(2) 控訴人側に有利な事情としては、次の各点を指摘できる。
<1> 被控訴人が本件競業禁止条項に違反した直接の動機は、コム社から手数料率について好条件を提示されたためであり、被控訴人の自己都合によるものである(前示1(三)(1)(2))。
<2> 競業避止義務違反についての違約金条項は、控訴人のみではなく、同業他社も同種の規定をおいている(前示(三)(1))。
<3> クリーニング業者は、自己の取次店が競業避止義務に違反すれば、有形・無形の種々の損害を被る。
ところが、そのような損害については、具体的な損害額の立証が困難である。
また、そのような損害の発生を未然に防止する必要性が強い。
そのため、予め、ある程度高額な違約金を定めておく必要がある(前示(三)(2)(3)(4))。
<4> クリーニング業者は、自己の取次店が競業避止義務に違反した場合は、次のような損害を被る(前示(三)(4))。
(イ) 当該取次店を通じてあげていた収益の喪失による損害。
(ロ) 客やノウハウの流失による損害。
(ハ) 信用を傷つけられることによる損害。
(ニ) 新業者と混同されることによる損害。
(ホ) 新たな取次店を獲得するために要する経費相当額の損害。
(3) 他方、被控訴人側に有利な事情としては、次の各点を指摘できる。
<1> 本件違約金条項は、被控訴人が本件競業禁止条項に違反した場合、違反の期間・程度を問わず、一律に、四年間の手数料(粗利益)以上にも達する金額を違約金とするものであり、著しく高額で過酷な違約金特約である(前示(二))。
<2> 控訴人は、顧客からのクレーム処理に迅速に対応せず、苦情処理義務違反があった。被控訴人が、本件委託契約を解約し、コム社の取次店となったことについては、控訴人の右苦情処理義務違反も影響していることは否定できない(前示1(二)(三))。
<3> 被控訴人(昭和一〇年四月二日生)は、自宅で、細々と、クリーニングの取次店を営んでいた一主婦である(前示1(一))。被控訴人店舗は、平成七年一月から一二月までの総売上高が四九五万七五〇〇円、手数料合計が一二二万七三八四円に過ぎない零細店舗である。被控訴人が、本件競業禁止条項に違反して、コム社の取次店として営業していたのは、平成八年二月、三月の僅か二か月間に過ぎない(前示1(三)(2)(3))。
<4> 被控訴人は、平成八年二月以降、控訴人の名が書かれたテントをはずし、全く新しいテントで営業を始めた。被控訴人店舗の正面玄関のガラスには、控訴人のイニシャルを記載したシールが残っていた。しかし、それによって、顧客が、被控訴人店舗を控訴人の取次店と見間違うようなことはなかった(前示1(三)(2))。
(4) 小括
前示(2)(3)で指摘した控訴人側、被控訴人側双方の各諸事情を総合して、本件違約金条項(一か月平均売上高の一二か月分の違約金)のうち、売上高四か月分の違約金(これは一年四か月分の手数料収入に当たる。)を超える違約金は、営業の自由を極端に制約するもので、社会的に著しく不相当な金額であると認める。このうち二か月間は、被控訴人が、本件競業禁止条項に違反して、コム社の取次店となって営業をしていた期間である。その違反期間(二か月)の二倍の期間(四か月)以上の売上金額(売上高八か月分の違約金--これは約二年八か月分の手数料収入に当たる。)は、公序良俗に反し無効と認める。
被控訴人の本件委託契約の解約前三か月の売上高は、平成七年一〇月が三八万七三八〇円、同年一一月が四六万八二〇〇円、同年一二月が一四万一二四〇円である。右期間の月間売上高の平均は三三万二二七四円であり、本件違約金条項が定める月平均売上高が同額となる。そうすると、本件違約金条項が定める違約金は、右月平均売上高の四か月分である一三二万九〇九六円の限度で有効であるが、同金額を超える部分は公序良俗に反して無効である。
ちなみに、右違約金一三二万九〇九六円は、被控訴人の平成七年度の手数料収入合計一二二万七三八四円を超える金額である。被控訴人は、一〇か月間コム社の取次店としての営業を差し控え、平成九年二月からコム社の取次店として営業を再開したが、再開時点で、被控訴人の顧客は、従前の半分程度に減ってしまっている(前示1(三)(3))。被控訴人は、本件競業禁止条項に二か月間違反して、コム社の取次店として営業したことによるペナルティーとして、一年分強の手数料収入を没収されるのである。被控訴人にとっては、かなり高価な代償を払わされることになり、違約金としては、これが公序良俗違反にならない限度である。
第四 結論
一 以上の認定判断によると、控訴人の本訴請求は、次の金員の支払を求める限度で理由があるので、これを認容し、その余は理由がないので棄却すべきである。
1 競業禁止条項違反による損害賠償金一三二万九〇九六円。
2 右損害賠償金に対する平成八年四月一八日(訴状送達の日の翌日)から完済まで年六分の割合による遅延損害金。
二 よって、これと異なる原判決を右のとおり変更する。
(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 小田耕治 裁判官 紙浦健二)